#8 現地の確認
#8 現地の確認

#8 現地の確認

2015年5月
会計事務所の所長さんと女性会計士さんが、融資の申請をする前に現地を把握しておく必要があると、真鶴のアトリエと森の場所を見にくることになった。

人もろくに入れない状態だった土地は、全容が見えるように 不動産屋さんが草刈を入れてくれたので、ちょうどタイミング良くお二人をご案内できた。

この場所には、楠などの常緑樹も多いけれど、冬にはすっかり葉を落とす巨木の榎など落葉樹もある。
ちょうど西の海側には落葉した木々たちの枝の隙間があり、熱海方面の海がキラキラと美しく輝いていた。

5月のいい季節。
まだ蚊も少なくフィトンチッドたっぷりの空気は ふっと肩の力をほぐしてくれて いつまでもこの場所にいたい。と思わせてくれる。
本当に、いつまでもいつまでも ここに身をおいておきたくなる。

所長さんはずいぶんと、このプライベート感のある場所が気に入って下さったらしく、
「いい所だね〜! こりゃ頑張ってやっていかなくちゃね」と、満面の笑み。
まだ、政策金融公庫には申請もしていないけれど、人生を乗り切ってこられた所長さんの放つ言葉は 公庫の合格点をもらったような嬉しい気持ちになって、初めて味わう安心感に深呼吸をした。

森の場所からアトリエに戻ると、いつも不安そうにしていた私達を勇気づけようと思ってくれたのか、
「あなたたち頑張ってるね。こんな場所で服作って売るなんてさ」と労うように声をかけてくれた。
人生の大先輩の言葉は 重みと温かみにあふれていて、私達はタガが外れたように涙が湧きはじめたので、隠すのに必死になった。

お茶を飲みながら、所長さんのお母様が縫い物をしながら子供たちを育てたこと、その背中をいつも見てきたこと、ご自身がなぜ会計事務所を開いたのか・・など染みいる話をたくさん伺い・・・
そして
「事業を起こしたのだから 社会貢献をしなくちゃいけないよ
あなたたちもできるまで頑張りなさいよ」
と励まして頂いた。

社会貢献・・
全く縁のない言葉ながら 所長さんから聞くとストンと心におちるものがあった。

私達の場合は お金を使って社会貢献なんてできるはずもないけれど、
森の場所が持てたら 来て下さった方が、美味しい空気を吸って 疲れがとれたり ホッと優しい気持ちになったり・・・
この場所を守っていくことが仕事のひとつになれば、少しは何かのお役にたてるのだろうか..。と、都合よく自分たちの夢とすりあわせた。

「とにかく、公庫の方にはできるだけのことをウチも頑張るから、あとは祈ってて下さいね」と
力強い言葉を頂いて、お二人を見送った。


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